己を知るのが第一歩

敵を知り己を知れば百戦危うからず。
古代中国の思想家孫氏による言葉です。
この言葉は経営においても非常に重要なことで、ライバル会社のことを知ることも重要であると同時に、自分のことを知ることも重要である、ということになります。
外部よりも内部である分、自社の状況というのはどうしても見えにくく、気づくと状況が非常に悪い状態まで到達してしまっている、ということも少なくありません。

では、自社についてはどのような方法でもって分析を行なうことが出来るのでしょうか?
自社分析に関しては一つの方法ではなく、複数の方法を用いて多角的に見据え、より客観的な分析を行なうことが重要になります。
ここではそんな自社分析の方法として、PEST分析、バリューチェーン分析、VRIO分析という3つの方法を紹介します。
PEST分析は外部環境からみた自社の状況を、バリューチェーン・VRIO分析は内部的な自社の状況を分析するための方法となります。

3つの自社分析

では、まず1つ目の自社分析方法としてPEST分析を紹介します。
PEST、と言っても感染病のことではなく、政治、経済、社会、技術を表す4つの英単語、Politics,Economy,Society,Technologyの頭文字を並べたものです。
それぞれすべてが、会社の経営に影響を与える「外部環境」要素となります。

まずはP、政治についてです。
例えば法律による規制や、税率などがこれに該当します。
いくら効率がよい事業であっても法律で禁止されてしまったり、課税されてしまうと経営は悪化します。
逆に規制緩和が行なわれれば仕事が行い易くなり、利益も拡大することになるでしょう。

次にE、経済についてです。
景気というのはすべての事業に対して影響を与えることだといえるでしょう。
例えば不景気、デフレの影響下においては、安いものが売れる傾向があり、価格競争が激しくなります。
逆に好景気、インフレの影響下においては高級志向のものが売れるなど、違いが出てきます。

また、景気の状況は銀行からの融資金利にも影響を及ぼすことになるため、融資によって事業を成り立たせている、という場合には状況が大きく変わる可能性もあります。
さらに、円安や円高の動向によって輸入・輸出がメインの産業は大きな影響を受けることとなるなど、経済の影響の大きさは計り知れません。

次にS、社会についてです。
これは、人口比の変化などによる需要の変化のことを指しています。
例えば現在日本は少子高齢化が進んでいます。
この状況で、子供向けの商品というのはシェアが小さくなり厳しいですが、逆に高齢者向けの商品はシェアが大きくなり利益が出やすい、ということになるでしょう。

この他にも、価値観の変化というのが挙げられます。
ここ数年では「若者の丸丸離れ」という言葉がよく聞かれるようになりました。
昔は当たり前のように需要があったものの、ライフスタイルが変化することによって必ずしも必要なものではなくなる、ということはよくあることです。

最後にT、技術についてです。
これは現在における技術の動向によるものだと考えれば良いでしょう。
例えばDVDやフラッシュメモリが当たり前になった現在において、フロッピーディスクの事業は段々と先細りしていく、というようなものです。
この他にも、他の技術が自社の製品の代替となってしまうような場合には、需要が大幅に減少する可能性があります。

これらの要件はいずれも自分たちの力では変更することが出来ないことです。
さらに、ちょっとした内部事情よりもよっぽど大きな影響を及ぼす可能性があるものです。
こうしたものについてはともかく広い視野で状況を見極め、早い段階で対策を練ることが重要になります。
PEST分析はそのための方法であり、分析するだけで終わり、というものではありません。

次にバリューチェーン分析について見ていきます。
バリューチェーン分析というのは、会社における活動について「主活動」と「支援活動」という2つの分野に分類し、それぞれにどんなものがあり、どんな強みや弱みがあるのか、ということを見極めるもののことをいいます。

例えば企業の主活動となるのは「購買や物流」「製造」「販売」「マーケティング」などです。
これに対して支援活動となるのは「経理」や「人事」「労務」「法務」などといった仕事となります。
主活動を円滑に効率よく行うためには支援活動がいかに優れたものであるのか、ということが欠かせない要素となります。
それぞれの事業をとってみて、成功した際にはどこの分野が優れていたのか、失敗した際にはどこの分野に問題があったのか、ということを細かく観察して分析しましょう。

最後にVRIO分析についてです。
VRIOもPESTと同じく頭文字を採ったもので、これは経済価値、希少性、模倣困難性、組織を意味するValue,Rarity,Inimitablity,Organizationを意味しています。
では、それぞれにどんな意味があるのか見て行きましょう。

まずはV、経済価値についてです。
これは会社における経済目標を達成するために必要な経営資源があるかどうか、とういことです。
事業を行っても利益が出ない、すなわち経済価値がないのでは意味がありません。
プラスになるだけの価値があるものかどうかを判断します。

次にR,希少性についてです。
これは、この事業が他の企業に有されていないような、数少ないものであるかどうか、ということです。
数が少ないというのはそれだけで対抗馬が少ないということであり、その分有利に働きます。
ただし、これには裏打ちされる需要がなければならず、当然その点は表裏一体となります。

次にI、模倣困難性についてです。
希少性がある事業でも、成功すると他者から追従者が出てくるのが普通です。
新しいものが生まれても、すぐに違う会社に模倣されてしまったのでは、自社の利益が薄くなってしまう可能性があります。
競合会社に真似されないような性質を持っているかどうかがこれにあたります。

最後にO、組織についてです。
これは経営において最大限の効率を出すことが出来るような組織があるかどうか、ということを意味しています。
V・R・Iが優れていたとしても、この組織がガタガタだと効率が悪化し、思うように事業が立ち行かなくなってしまう可能性があります。
組織に問題があるのであれば、どう改善すれば良いのかを考えましょう。

これら3つの分析を組み合わせて自社の状況を把握し、今後につなげていくことが重要です。

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